「気まぐれな上司」と思われる前に、言語化しておくべきこと

こんにちは。株式会社ICUの川島です。

今日の話は少し長くなります。ただ、チームを持つ人にとっては「ああ、これ」と思う場面が多いはずです。
お時間のあるときに読んでいただければ。

先日、あるリーダーの方からこんなご相談をいただきました。

「部下に『ここは自分で進めて』と言ったら、後から全然違う方向に仕上がってきた。かと思えば、確認を入れたら『いちいち口を出さないでほしい』と言われた。自分のやり方がおかしいのかなと…」
こういう話は珍しくありません。

「なぜ序盤はあれだけ会議をしたのに、途中から急に任せるんですか」と若手に聞かれた、という方もいます。
終盤になると「なんで急にチェックが厳しくなるんですか。信頼してないんですか」と言われた、という話もあります。

これはマネジメントのやり方がおかしいのではありません。「調整コストの使い分け」がチーム内で共有されていないだけです。

プロジェクトには「緻密に調整すべきフェーズ」と「どんどん進めてよいフェーズ」があります
切り替えにはちゃんとした理由があるのに、それが共有されていないから気まぐれに見えてしまう。

リーダーがこの仕組みを言葉にして伝えるだけで、チーム内の「なぜ?」はかなり減ります。

調整コストはフェーズで変わる

プロジェクトで人と人が合意したり、確認し合ったり、認識をすり合わせたりするのにかかる時間と労力のことを、ここでは「調整コスト」と呼びます。作業そのものではなく、作業を前に進めるために使っている「作業以外の時間」です。

このコストは、プロジェクトの全期間を通じて均一ではありません。序盤・中盤・終盤で大きく変わります。

序盤は高い目的や役割分担、判断基準、ゴールのイメージなど、まだ何も決まっていない状態から「全員が同じ認識を持つ」ところまで持っていく必要があるからです。
人が何かを一緒にやるときには、誰に確認すべきかを探す時間、合意に至るまで話し合う時間、約束どおりに進んでいるか確認する時間が必ず発生します。プロジェクトの序盤は、このうち「合意に至るまでの時間」が集中する局面です。

ここに時間がかかるため、つい省きたくなります。ただし、このコストは省いてはいけません。
後になるほど修正コストが跳ね上がるからです。

たとえば、営業チームで新規の大型案件を3人で分担するとき、最初に「誰がどの範囲をやるか」「提案の方向性は値引きで攻めるのか付加価値で攻めるのか」を揃えておかないと、終盤で「俺が聞いた話と違う」が起きる。

社内の業務改善やシステム導入でも同じです。「何をどこまで変えるか」を最初に揃えないまま進めると、運用が始まってから「聞いていた話と違う」が出てくる。ほぼ例外なく、序盤の合意形成を省いたときに起きています。

中盤は任せ、終盤でまとめる

中盤は低くていい。合意ができていれば、各自が自律的に作業を進められる状態になっているはずです。いちいち確認を取らなくても、判断の基準が共有されているから迷わない。この「低コストで走れる状態」をつくるために、序盤のコストを払っているわけです。

終盤は仕上げのフェーズです。各自が進めてきた成果を一つにまとめ上げる段階なので、調整コストは再び上がりますそれぞれが進めていた仕事のつなぎ目で「合わない」が見つかったり、序盤に参加していなかった上司や決裁者が登場して認識のズレが表面化したりする。

関わる人が増えるほど、この統合の調整は複雑になります。5人のチームで「AさんとBさん」「AさんとCさん」…とすべてのペアで確認を取り合うと、その組み合わせは10通りです。これが10人になると45通りになる。人数は2倍なのに、確認の手間は4倍以上に膨れます。

調整コストは序盤が高く、中盤で下がり、終盤でまた上がるこの変化のパターンはどのプロジェクトにも共通する構造であり、誰かの気まぐれではありません。

フェーズが共有されていないと、不満に変わる

問題は、この変化のパターンがほとんどの組織で「暗黙知」のまま運用されていることです。
ベテランは経験で知っていますが、言語化して伝えていない。だから新人や若手には見えません。

見えないとどうなるか。

よくあるのは「なぜ自分で決められないのか」という不満です。
序盤の合意形成に十分に関与していない若手が、実行フェーズで何かを進めようとしたときに「それは確認してから」と止められる。
本人からすれば理不尽に感じる。でも実際は、その判断が合意の範囲内かどうかを本人が判断できないから確認が必要なだけです。

逆のパターンもあります。「なぜ放置されるのか」という不満です。
リーダーは「合意できたから任せていい」と思っている。でも若手は合意の中身を十分に共有されていないから、何を基準に判断すればいいかわからない。
結果として間違った方向に進み続け、終盤で大きな手戻りが発生します。

どちらも原因は同じで、「今どのフェーズにいて、なぜこの調整レベルなのか」が言語化されていないことにあります。

実際、大卒の約35%が入社3年以内に辞めています。理由は待遇だけではありません。
「自分がどう動けばいいかわからない」「何を期待されているかが見えない」。
その状態が続くと、人は「この組織は自分に合わない」と感じ始めます。不満は内側に溜まり、ある日突然「辞めます」になります。

任せるべきときに口を出すと、チームは止まる

逆のパターンも見落とせません。
中盤の実行フェーズに入っているのに、リーダーがすべての判断に関与しようとするケースです。

課題を全部自分で確認し、指示を出し、承認する。メンバーは確認待ちで手が止まり、「自分で判断してはいけないんだ」と学習してしまう。これはマイクロマネジメントと呼ばれる状態であり、調整コストを「下げるべきフェーズで上げてしまっている」典型です。

序盤にコストをかけすぎないのも問題ですが、中盤に手を放せないのも同じくらい危険です。
どちらも「フェーズに合った調整レベル」を見誤っている、という点では根は同じです。

リーダーが今日からできること

ツールや制度は後回しでいい。まず言葉だけで始められます。

1つ目は「フェーズの宣言」です。言葉にして伝えるだけで十分です。たとえばこんなふうに。

  • 序盤:「今週は方向性を揃える週です。『それ本当にこれでいいですか?』は今のうちにどんどん聞いてください。後から言うと手戻りになります」
  • 中盤:「ここからは各自で進めてOKです。判断に迷ったらこの基準で考えてください」
  • 終盤:「来週から確認が増えます。うまくいっていないからではなく、みんなの作業をつなぎ合わせるフェーズに入るからです」

こういう一言があるだけで、メンバーの受け止め方が変わります。

2つ目は「自己判断OK」と「要確認」の線引きを、文字にして残すことです。
社内チャットでもメールでも共有ドキュメントでも、手段は何でも構いません。
「金額〇万円以下の発注は自己判断で進めてよい」「提案の値引き幅が〇%以内なら即決OK、超える場合は上長に確認」のように、よくある場面ごとに基準を言語化にする。

完璧な基準書は要りません。大事なのは「文字として残っている」という事実です。口頭だけだと「言った・言わない」になりがちですが、文字にしてあればメンバーは迷ったときに自分で確認できる。
リーダーの頭の中にある「なんとなくの基準」は、文字にした瞬間からチームの共有財産になります。

3つ目は、新しくチームに加わった人への「期待値の確認」です。
入って1か月以内に、「どこまで自分で動いていいか」「わからないときは誰にどう聞くか」を個別に話す機会があるといいです。
「なんとなく空気を読んで」は仕組みではありません。基準を言葉にして伝え、疑問があれば聞ける関係をつくることが、チームの調整コストを仕組みとして下げていきます。

仕組みを言葉にするだけで、組織は強くなる

調整コストの変化のパターンを知っているかどうかで、リーダーの声かけは変わります。そしてメンバーの受け止め方も変わる。
「なぜ今この調整が必要なのか」が見えると、同じ会議でも「なんで確認ばかりなんだ」というストレスが「今はすり合わせの時間だ」という納得感に変わります。

チームの動き方が整うと、営業の場面でも成果が出やすくなります。
提案の方向がそろい、手戻りが減り、一つの案件に集中できる時間が増えるからです。

そして「自分がどう動けばいいかわかる」組織には、人が残ります
採用した人材の定着率は、制度や待遇だけでなく、日々の仕事の中で「自分の役割が見えているかどうか」に左右されます。

次のキックオフで、一言だけ添えてみてください。「今週は方向性を揃える時間です」。その一言から、チームは変わり始めます。